SUMI-E WORKSHOP

水墨画講座

CHINESE BRUSH PAINTING



Chinese Brush Painting 中国人物画の巨匠たち

 水墨画は中国で生まれたものとされ、長い歴史と豊かな伝統を持っています。日本の水墨画にも大きな影響を与え、それぞれに発展を遂げてきました。水墨人物画を描くなら知っておきたい歴史的な人物を紹介しましょう。


 中国・東晋時代に活躍した画家、顧愷之(こがいし:346~407年)は、秀作とともに多くの画論(絵画に関する論評や理論)を残していますが、その中に「以形写神」という絵画観があります。「形を描くという手段を通して、精神や感情を表現する」というような意味です。人物画を魂のこもったものとするためには、対象となる人物の外観だけをとらえるのではなく、その人が持つ心理状態なども表現しなければならないというのです。

 顧愷之は、中国絵画が大いなる発展を見せる唐の時代には「名画の祖」として尊ばれた存在ですが、今日に至るまで、その基本理念は受け継がれており、現代水墨画の基本技法のひとつとされます。


 唐の時代は人物画が非常に盛んになった時期です。唐を代表する画家、呉道子(ごどうし:?~792年)は「疎体」を特徴としました。また、彼は、筆の穂をところどころで紙に強く押さえつけることにより変化をつけてリズム感を表す「蘭葉描(らんようびょう)」の技法と、曲転する線で衣服が風にたなびく様子を描く「呉帯当風(ごたいとうふう)」という筆法を生み出しました。潑墨法(はつぼくほう)や破墨法(はぼくほう)など、現代にいたるまで重宝されているさまざまな技法が開発されたのもこの時期です。

  以後、歴代の画家たちは、過去に生み出されたさまざまな線描技法を継承しつつ、新しい工夫を重ねながら、独自の手法を創造していきます。


 「簡筆画」の創始者といわれる五代の石恪(せきかく:生没年不詳)は、当時主流だった細密な画風とはうって変わって、筆数の少ないダイナミックな筆使いで、大胆な誇張と省略を用いた造形を見せました。

  北宋の李公麟(りこうりん:1049~1106年)は、顧愷之の線描技法を熱心に研究したひとりで、「白描の大師」といわれています。彼は、顧愷之に始まる細く連綿と続く游絲描(ゆうしびょう)の伝統技法の上に、堅く強い鉄線描(てっせんびょう)を融合して、独自のスタイルを形成しました。

  南宋の梁楷(りょうかい:生没年不詳)は、「狂草」といわれる書体(草書体をさらに崩した書体)の筆法と潑墨を用いて(大筆潑墨法)、極限まで省略された簡潔な表現技法を披露しました。画家の精神や感情、主観によって形を取り、余計なものは一切捨て去っています。これはのちに「減筆画」と呼ばれることとなります。

 

「飄々として吟遊する詩人李白をわずか数筆の線で表現しており、背景などの書き込みは一切ありません。実にシンプルな構図であり、簡潔な線描ですが、なぜか見る者を飽きさせることがなく、それどころか悠々とたたずむ李白の人柄や吟じる声までも伝わってきそうな気配です。」(粱楷 画『李白吟行図』)

 元の時代になると文人画が盛んになり、山水画が絵画の主流となります。そのため、人物水墨画はほとんど発展を見せませんでした。

  明の時代には、陳洪綬(ちんこうじゅ:1598~1652年)のような傑出した人物画家が現れます。陳洪綬は、人物の個性的な特徴を誇張して(顔や耳を大きく描くなど)表現することを得意とし、ユニークな作品を残しています。

  また、明代の代表的な画家、徐渭(じょい:1521~1593年)は写意画派の代表とされる文人のひとりです。草花・果物・野菜などの身近で雑多なものをモチーフとする「花卉雑画」(かきざつが)を好んで描いたようですが、たとえば「秋郊策蹇図」にわずか数筆で表された人間とロバは、その形を見事にとらえ、いきいきとした動きも巧みに表現しています。

しかしながら、この時代も人物画の制作技法上の画期的な進歩はなく、多くの画家たちは伝統技法を守り続けただけでした。


 1949年、中華人民共和国が成立すると、社会的な必要性もあって人物画の需要が高まります。その結果、元・明・清の時代に守り続けられていた人物画の伝統技法を打ち破り、中国画の人物の線描や水墨技法、彩色法に新しい工夫を加えて、さらなる発展を見せるようになります。

  近代の画家としては、歴史人物の描写にすぐれた傳抱石(ふほうせき:1904~1965)、西洋画の優れた技法を吸収して豊かな中国画創作を目指した徐悲鴻(じょひこう:1895~1953)、愛国主義者で現実主義的作品を残した蒋兆和(しょうちょうわ:1904~1986)、東洋のピカソと呼ばれた張大千(ちょうだいせん:1899~1983)などを挙げておきます。


 人物クロッキーの参考になる作品例としては、葉浅予(ようせんよ:1907~1995)に注目したいと思います。彼は人物画家で、少数民族の生活や抒情あふれる剣舞などの人物画を得意としました。

 

「独特な風格をなしている伝統的水墨画技法とクロッキーを融合させています。とても躍動感のある絵です。」(葉浅予 画)

 中国人物画は、このように脈々と続く伝統を受け継ぎながら、停滞していた時期があるにせよ、技法は高まり、次第に豊かに、より深い表現の追求へと進んでいます。

 

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